本書では、ストックホルムの精神科医である筆者が、スマートフォンが人間に与える問題点を、多くのエビデンスと生物学的視点から分かりやすく警鐘を鳴らす本である。
著者は、スマートフォンは現代の中毒性のある「麻薬」と表現する。
使ったことがなければ使わなくても支障はないが、使うと手離すことができず、気づかぬうちに依存症に陥ってしまう。
実は、スマホによる多くのサービスは、不確実な報酬をサービスの一部として加えることで、ギャンブルのような中毒性のある体験を消費者に提供しているのである。
(もちろん、一見するとギャンブルには見えないような装いはしているが。)
スマホ向けサービスの開発者は、脳科学の知識を駆使して、ユーザーがスマホに縛られてしまうようなコンテンツやアプリを開発することに心血を注いでいる。
多くのSNSやWebコンテンツにとって、ユーザーが自分達のサービス内で回遊する時間が彼らにとっての収益の源泉であるからである。
スマホにユーザーを縛り付けるような悪意のあるサービスであるとしても、それにほんのわずかな利便性というスパイスを与えることでイノベーションとして賞賛されるのである。
多くの企業にとってDX(デジタル・トランスフォーメーション)は避けることのできない論点であり、ビジネスパーソンにとっては残念ながら使わないで生活するということは許されないであろう。
しかしスマホ依存すると、集中力の低下、ストレスの増加、睡眠の質の低下という副作用をもたらすことには留意が必要である。
(本書では、スマホの副作用へ対処する手段として「運動」を推奨している。)
子供に対してスマホやタブレットを与えるかという判断をする前には是非本書を読んで欲しい。
「人新世の資本論」同様、現代社会で不可欠とされたものに対して、エビデンスに基づいて一石を投じる良書であると思う。
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