ファイナンスにおいては株主にとっての価値の最大化が求められます。
しかし、企業を巡るステークホルダー(利害関係者)は株主だけではありません。
従業員、債権者、消費者、仕入先そして、その会社が所属するコミュニティの人々も企業にとってのステークホルダーと言えるでしょう。
また、株主価値を最大化するための施策(例えば、リストラのための解雇など)は、解雇される従業員にとっては大きなダメージとなってしまいます。
このように、ステークホルダー同士の利害は時に対立することもあります。
それでもファイナンスの分野では株主にとっての価値の最大化が重視されるのはなぜなのでしょうか?
それは、株主にとっての価値についてベストなことは、「長期的」な視点では「大半のステークホルダー」にとってもベストであると言えるからです。
英語の格言では、下記のような格言があります。
組織の有効性・妥当性を確かにする最善の方法は最も弱い立場にあるものをケアするという意味です。
一見すると、株主はお金持ちであり、会社のオーナーであり、強い存在であるように見えるかもしれません。しかし、「お金の流れ」という観点からは弱い存在なのです。
その一つの例として、損益計算書(PL)を見てみましょう。損益計算書は上から、
① 売上高
② 売上原価
③ 売上総利益 = 売上高 – 売上総利益
④ 販売費及び一般管理費
⑤ 営業利益 = 売上総利益 – 販売費及び一般管理費
⑥ 営業外損益
⑦ 経常利益 = 営業利益 ± 営業外損益
⑧ 特別損益
⑨ 税引前利益 = 経常利益 ± 特別損益
⑩ 税金(法人税、住民税他)
⑪ 当期純利益 = 税引前利益 - 税金
という流れになります。それぞれの項目の詳細は割愛しますが、
②では仕入先に対して仕入代金の支払いが、
④では従業員への給与の支払いや、オフィスの家賃や水光熱費の支払いが、
⑥では主に債権者に対する利息の支払いが、
⑩では国や地方公共団体に対する税金の支払いがなされます。
他のステークホルダーに対しての支払いがなされた後、利益が残っていた場合に株主に対して配当がなされるのです。
その他にも、会社が倒産する場合、従業員の給与は優先的に守られるのに対して、株主の出資した金額というのは必ずしも保証されません。
債権者への弁済や、未払税金の支払いなどが全て完了し、それでも手残りがある場合のみ、株主に対しても残余財産が分配されるのです。
この記事の冒頭に述べた通り、ステークホルダー同士の利害は短期的には対立することもあります。
しかし、長期的な視点では、お金の流れという観点から最も弱い立場にある(かつリスクをとっている)株主の価値を最大化することが、他のステークホルダーにとっても間接的に利益をもたらすといえるのです。
次の記事:第03回
前の記事:第01回
目次:MBAファイナンス
Comments