企業の財務を担当するリーダーは、どのように資金調達をするべきでしょうか?
企業経営の目的の一つは、ビジネスを通じて企業価値を最大化するということです。
企業の価値は、将来に生じるキャッシュフローを資本コストで割ることによって求めることができます。
したがって、企業は資金調達をする際、分母である「資金調達コストをできるだけ小さくすることで、企業価値を最大化する」ことが資金調達にかかる意思決定の目的ということができます。
今後数回の記事では、D/E比率の選択がWACCや企業価値にどのような影響かを説明するため、資本市場に関する理論について説明していきます。
まずは、完全本市場理論について説明していきます。
完全本市場理論では以下のような前提がおかれます。
① D/E比率は投資によるキャッシュフローに対して影響を与えない。
② 企業の有利子負債はリスクフリーである。
③ 完全資本資本市場においては、
税金は存在しない。
取引費用は存在しない。
情報の非対称性は存在しない。
資本市場における他の摩擦要因は存在しない。
当然ながら、現実世界には上記のような市場はありませんが、ファイナンス理論ではベンチマークとして上記のような完全資本市場を想定しています。
完全資本市場における資本構成を考察した理論としてMM命題を説明します。
完全資本市場では、投資家は企業と同じレートで資金調達をできるものとされます。
企業が株主の為に企業の資本構成を変更するのと同じように、株主自身も彼らの資本構成を変更するということができるのです。
従って、投資家は、企業のD/E比率の大小のみによって、企業の評価を変化させるということはありません。
MM命題では、「完全市場における企業価値は、企業の現状の資産より生じる将来のキャッシュフローと、将来の投資機会より生じる将来のキャッシュフローによってのみ決定される(資本構成や配当の影響は受けない)」ものとされます。
企業が財務レバレッジを利用しない場合、すなわちD/E比率が0%で資本の調達を株主資本のみによって行う場合、企業のキャッシュフローは全て株主に帰属します。
この場合、企業価値は株式価値と一致します。
もし、企業が有利子負債による調達を行っている場合、企業の将来のキャッシュフローは株主と債権者に帰属します。この場合、企業価値は、株式価値と負債価値の合計ということになります。
という等式が成り立ち、財務レバレッジを利用した場合も利用しない場合も企業価値は一定であるというのがMM命題です。
MM命題はよくピザの例で例えられます。
1枚のピザを株式という形で1枚でもっても、1枚のピザの株式・負債・優先株式・転換社債と切り分けても、ピザの価値は変わらないのです。
重ねての注意になりますが、MM命題は実際の世界では機能しません。
MM命題の前提とするような完全資本市場は存在しないからです。
しかし、MM命題は最適資本構成に関するより現実的な理論を考える上での基礎的な示唆を与えてくれます。
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