次に、純粋期待仮説について説明します。
純粋期待仮説は、長期の金利は将来の短期の金利の期待値によって決定されるという理論です。
前回の記事での例題で考えてみると、マーケットの期待する1年後の1年債の利回りは9.5%ということになります。
2年債利回りが8.243%で1年債利回りが7%の時、企業としてはどちらで借りるべきでしょうか?
2年債で借りれば、借り入れた時点でトータルでの支払額は確定します。一方で1年後に借り換える場合は、1年後の利回りというのはわかりません。
(現時点でのマーケットの予想は9.5%でも、1年後に本当に9.5%になる保証はありません。)
この問いに対する教科書的な答えは、財務リスクを和らげるというために「返済期間と資金の仕様目的の期間」を一致させるべきというものです。
長期の設備投資の場合は長期の資金を調達し、短期の投資を行う場合では短期での調達をするべきなのです。
長期の利回りと短期の利回りについて、「流動性選好説」という別の理論を説明します。
貸し手にとっては、短期で貸す場合の方がすぐに現金化できるという「流動性」があり、好ましいという事もできます。
一方で、借り手としては長期で借り入れた方が、キャッシュフローの安定がもたらされ、短期での資金繰りの危機を避けることができるという利点があるといえます。
この貸し手と借り手の間で生じる相反する選好を説明したものが、流動性選好説です。
流動性選考説のもとでは、借り手は長期資金を調達する際、貸し手に対して返済までの期間が長期化することに対してプレミアムを払うということになります。
つまり、現在と将来の短期の利回りのみで長期の利回りが決まるのではなく、それらに加えて流動性に対するプレミアムを加味したものが長期の利回りになるという理論です。
上記の例では、2年債利回りが8.243%で、1年債利回りが7%とすると、マーケットの期待する1年後の1年債利回りは9.5%ではなく、9.5%からプレミアムを控除した利回りということになります。
もし、貸し手・借り手が1年弁済を伸ばすことへのプレミアムを0.5%とみなしている場合、1年後の1年債利回りは9.5% - 0.5% = 9%となります。
この場合、1年毎に借り換えた場合の複利は、1.07×1.09=1.166で、2年債の場合は(1.08243)^2=1.171となり、より満期までの期間が長い2年債で借りた場合の方が「流動性プレミアム」の分だけ割高ということになります。
企業が運転資本として在庫の調達や、売掛金の入金までのファイナンスを調達する場合は、流動性選好説のもとでは、流動性プレミアムのかからない短期の資金で調達すべきということになります。
一方で、長期の投資の場合は、トータルでのコストが高くなったとしても、財務リスクを減少させるためには長期の資金調達をすべきというものが、ファイナンスの教科書的な考えです。
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