投資にかかる意思決定をするときの一つの指標として、「正味現在価値(NPV)」を計算することが必要になります。
計算の結果、NPVが正の場合はその投資はすべきということになりますし、NPVが負の場合はその投資はすべきでないということになります。
NPVは、将来発生するキャッシュフローを現在価値に割り引いて、その合計から初期投資の金額を割り引くことで計算することができます。
具体的な例を見てみましょう。
プロジェクトでは0年目に30,000ドルの投資が必要になります。
そのプロジェクトに投資すると、1期目の期末と、2期目の期末にそれぞれ18,000ドルのキャッシュフローが発生するとします。2年間のキャッシュフローはいずれもリスクがないものとしたとき、この投資は良い投資と言えるでしょうか?
実は問題文から与えられる情報だけでは、判断することができません。
この投資を実行すべきか意思決定するためには、投資をしなかった場合にノーリスクでどれだけの利回りを得られるかを考慮することが必要となります。
ここでは、ノーリスクの国債が7%であると仮定します。なお、リスクがないことをファイナンスの世界では「リスクフリー」と呼びます。
まずは、プロジェクトより今後2年間で発生するキャッシュフローをそれぞれ現在価値に割り引きます。
現在価値 = 18,000 / 1.07 + 18,000 / (1.07)^2 = 32,544ドル
設問文より、このプロジェクトは30,000ドルの初期投資が必要です。
従って、このプロジェクトのNPV は32,544 – 30,000 = 2,544ドルとなり、NPVが正であるため投資すべきという判断になります。
なお、今回はプロジェクトから発生するリスクをノーリスク(リスクフリー)であるとしましたが、通常投資プロジェクトは国債よりもリスクが大きいということになります。
例題では、7%が国債の利回りですから、プロジェクトの投資家は7%よりも高い利回りを要求することになります。この投資家が要求する利回りのことを、ファイナンスの世界では「資本コスト」といいます。
例題のケースで、投資家の要求する資本コストが10%の場合、NPVはより小さくなり、1,239ドルとなります。
次に、応用問題に挑戦してみましょう。
ある会社が新規プロジェクトを実施するかを検討しています。新規プロジェクトでは、0年目に1,000ドルの投資が必要となり、5年間にわたって毎年350ドルのキャッシュフローが発生するとします。また、投資家はこのプロジェクトに対して、15%の資本コストを要求しているとします。
この会社の株価が10ドルで、発行済株式数が100株の時、プロジェクトを実行することで株価はいくらになるでしょう。(この会社は負債の借入はないものとします。)
まずは、前の問題同様にNPVを計算します。
計算は割愛しますが、NPV = 173 ドルとなります。
この会社は全ての資金を株式により調達している(負債での調達はしていないので)、この会社全体の価値(時価総額)はプロジェクトを実行することで173ドル上昇することになります。
つまり、プロジェクト実行後の株価は、
10 + 173/100 = 11.73ドルとなります。
このように、NPVによる投資決定の判断は、プロジェクトへの投資実行が株主価値を向上させるものかどうかの判断と同じ意味を持つのです。
ビジネスパーソンが投資の意思決定をする場合は次のプロセスを踏むことになります。
① 今後発生が想定されるキャッシュフローを見積もる
② 資本コストを計算する。(資本コストの計算について詳細は別記事にて)
③ ①で見積もったキャッシュフローを②で計算した資本コストで割り引いて、NPVを求める。
④ 検討しているプロジェクトが1つのみである場合、NPVが正であれば、そのプロジェクトを実行する。
⑤ 複数の相互に排他的なプロジェクトを検討している場合、最もNPVが大きい(もちろん0より大きい)プロジェクトを採用する。
上記のプロセスを踏むことで、株主価値を最大化させる意思決定ができるということになります。
具体例で考えてみましょう。
0年目キャッシュフロー:-4,000ドル
1年目キャッシュフロー:1,500ドル
2年目キャッシュフロー:2,000ドル
3年目キャッシュフロー:1,500ドル
3年目キャッシュフロー:1,500ドル
資本コスト:15%
NPV = -4,000 + 1,500 / (1.15) + 2,000 / (1.15)^2 + 1,500/ (1.15)^3 + 1,000 / (1.15)^4
= 374 > 0
NPV が正ですので、このプロジェクトは採用すべきということになります。
次の記事では、様々なケースでのNPVについて説明したいと思います。
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