前回の記事の通り、複数のプロジェクトから投資対象を決定する際には、その順位付けをどのように行うかが重要となります。
具体例で考えてみましょう。
あなたはある会社のCFOで、1,000千円の予算からどのプロジェクトに投資するかを決めなければなりません。
NPVが大きいものから選んでいくと、まずはNPVが大きいC、Bが選ばれます。
CとBの初期投資額は合計で900千円ですので、残りは100千円です。初期投資額が100千円のEとFの比較で、よりNPVの大きいFに投資するということになります。
その場合のNPVはB120千円 + C300千円 + F40千円=460千円となります。
PI が大きい順に選んだ場合はどうでしょう。
C, A, F, D, Eの順に選ぶと初期投資額の合計は1,000千円となり、NPVの合計は
A100+C300+D75+E30+F40 = 545千円となります。
この場合に得られるNPVは、NPVが大きいものから選んだ場合よりも大きくなります。
これはなぜかというと、PI の順に選ぶことにより、1円当たりの投資に対して将来キャッシュフローの現在価値(PV)が大きい効率のよい順に投資が選ばれることになるのです。
逆に、NPVの大きい順番に選ぶと、予算の50%を占めるプロジェクトBが選ばれてしまいうことになるのです。
上記のケースではPIによる意思決定の方が最終的にNPVを最大化することができました。
しかし、上記のケースは資金調達と投資の実行を1度だけ行うという前提となっています。
実際の現実世界では、投資の意思決定は毎期ごと、企業によっては四半期毎やそれ以上の頻度で検討されることになります。
その場合は最初の投資の意思決定が、次回以降の投資の意思決定に影響を与えることになります。
もし、最初に選んだプロジェクトがプロジェクト期間の序盤にキャッシュを生み出すようなプロジェクトであった場合、次の意思決定の際にはそのキャッシュを新たな投資に回すことが可能となります。
一方で、同じNPVであったとしても、キャッシュの発生まで時間のかかるプロジェクトを選んでしまった場合、次の意思決定の際に必要なキャッシュが不足するという事態も考えられるわけです。
PI は効率性を考慮する指標であはありますが、キャッシュの発生するタイミングというものを反映できていないのです。
そして、それを反映するという意味で有益な指標が回収期間なのです。
回収期間の計算で考慮されるのは、プロジェクトで序盤に発生するキャッシュのみです。
したがって、今後も継続した投資が想定される企業や、今後の資金繰りが苦しくなる可能性のある企業においては、回収期間を考慮した意思決定が有効となります。
(回収期間には、回収後のキャッシュフローが考慮されないという点には留意が必要です。)
また、IRR(内部収益率)による意思決定をした場合、キャッシュの発生が後ろ倒しになる大規模プロジェクトの優先順位が低くなることになります。
回収期間同様、早期に初期投資額が回収されるプロジェクトの方がIRRが高いということになるからです。
以上のように、投資の際の意思決定のルールは、それぞれの指標に一長一短があります。
一つの目安ではありますが、資本市場に容易にアクセスして資金調達できる大企業はNPVによる意思決定を、外部からの資金調圧に制約のある小規模企業であれば回収期間やIRRによる意思決定を行うというのが基本的なルールになるのではないかと思います。
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