前回までの記事の内容より企業価値は下記の関係式によって説明することができます。
これを図示したものが下記になります。
図によると負債比率が増加することによって節税効果が増加していきます。
しかし、企業は借入を最大化するべきではありません。
負債を一定以上に借り入れることによって、財政難によるコストが増加し、節税効果のメリット以上に調達コストの増加によるデメリットが大きくなります。
企業は負債調達による節税効果と財政難によるコストが均衡する点である「最適資本構成」を発見し、そこまで負債比率を高めることで企業価値を最大化できるのです。
これを、負債コスト、株主資本コスト、WACCの関係で図示すると下記の通りとなります。
負債比率が最適資本構成よりも低い場合、有利子負債の節税効果のメリットがデメリットよりも優位な状態にあり、負債比率が最適資本構成を越えると、節税効果のデメリットがメリットを上回ることになるのです。
アメリカの企業を分析すると、ビジネスと資本構成の関係には下記のようなパターンが見て取れます。
同じビジネスを展開する企業は、同じような財務レバレッジを持つことになります。
ビジネスのリスクが大きくなるにつれて、その企業の負債比率は低下する傾向にあります。リスクの高いビジネスである場合負債での調達が困難となり、企業は株式による資金調達を指向することになります。
資産のうち有形資産の比率が高い企業ほど、負債比率が高いことになります。担保として弁済の裏付けになる資産を保有することで、負債による調達が容易になるのです。
資本調達の手段としては、企業は60~80%を剰余金の蓄積(内部留保)によって賄い、残りを負債、さらにその残りを株式の新規発行によって調達しています。企業が外部調達する場合は、株式よりも負債を活用することが多いです。
利益の蓄積の多い企業ほど利益剰余金が蓄積することになり、負債比率は低下する傾向にあります。一方で、利益の少ない企業ほど負債比率が高くなる傾向にあります。
「最適資本構成」について考えることは政府の役割に関する示唆を与えてくれます。
企業が最適資本構成まで負債比率を高めることで、企業価値を最大化できることは説明した通りです。
しかし、もし政府が財政難に陥った大企業を頻繁に救済し、「大きすぎてつぶせない(Too big to fail.)」という期待が蔓延してしまうと、その期待は大企業の最適資本構成にかかる意思決定に影響を与えはしないでしょうか?
IMF(国際通貨基金)が金融機関を救済した場合の事例を見てみましょう。
1994年にメキシコにて通貨危機(ペソ危機)が発生しデフォルトが非常に近づいた時、IMFは外資の金融機関は救済しましたが、国内金融機関は救済しませんでした。
この救済の方針は1997年のタイの通貨危機や韓国の通貨危機にどのように関連したでししょうか?
タイと韓国の事例でも、IMFは外資の金融機関は救済し、国内金融機関を救済することはありませんでした。
このIMFによる介入は、外資系金融機関に対してモラルハザードの空気を醸成し、グローバルな金融市場における不安定性をもたらしました。
1998年にロシアで財政危機が発生し債務不履行となりました。連鎖的な危機が世界中で生じ、ウォール街ではノーベル経済学賞受賞者らが設立したLong Term Capital Managementは破綻することとなってしまいました。
しかし、流動性の危機的な状況は短期間で収束することができました。
続くアルゼンチンの危機もグローバルな金融市場に対しては大きな影響を与えることはりませんでした。
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