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執筆者の写真Gary Tanaka

MBAファイナンス㊲:PERとPVGO ケース

更新日:2021年4月5日


PER(株価収益率)とPVGO(成長機会の現在価値)について具体的な事例をもとに考えてみましょう。

1990年代のアメリカ企業のPERを見てみたいと思います。

以下の表は、1994年と1996年における各社のPERを示しています。



1994年時点では、株式投資に対する株主の要求利回りは10%と仮定します。


要求利回りが10%の時、PVGOが0の場合、PER = 1 / 10% = 10倍となります。


上記の企業について、投資家はクライスラーとフォードのPVGOについてはマイナス、

GMについてはPVGOはゼロ、ファイザーについてはPVGOがプラスであると評価していたということができます。


クライスラーとフォードの2社についてはPVGOがマイナスですので、株主にとっては利益を留保するのではなく配当を増やす方が望ましい状態でした。

株主としては、2社が再投資するのを看過するのではなく、配当として受け取ってファイザーなどのPVGOがプラスの企業に投資するということが正しい選択肢になります。


実際にクライスラーの大株主は、クライスラーに対して配当の増額と自己株式の取得を要求し、クライスラーが保有する現金を減らすということを行いました。



その後、クライスラーはどうなったでしょうか?


1998年にクライスラーはドイツのダイムラーベンツに買収されることになります。

ダイムラーベンツの狙いとして、クライスラーの製品デザインと販売ノウハウを、ダイムラーの技術力と組み合わせることで数十億ドルのシナジーを実現することでした。

当時、クライスラーのクオリティはアメリカの三大自動車メーカーの中では一番低いと考えられていたのです。


実際にこのシナジーは実現したのでしょうか?


買収1か月前のダイムラーベンツの時価総額は590億ドル、クライスラーの時価総額は270億円で、2社合計で860億ドルでした。


買収から8年後の2006年、ダイムラークライスラーの時価総額は540億ドルとなっていました。

当初狙っていたシナジーは実現されることなく、860 - 540 = 320億ドルもの時価総額が蒸発してしまったのです。

(一説には、両社には文化的な差異があり、ブランドの希薄化を恐れたクライスラー側のノウハウの共有が上手くいかなかったと言われています。)


そして、2007年にダイムラークライスラーは、クライスラーを投資ファンドに売却するということを発表します。

売却を発表した結果、ダイムラークライスラーの株価は870億ドルまで上昇することになりました。皮肉にも、2社が合併する前の水準まで上昇することになったのです。

投資家たちは、企業文化の異なる両社の合併は決して1+1=2になるとは考えておらず、寧ろそれぞれが別々の企業として運営されるということを評価したのでした。



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ブログ管理人:田中ゲイリー

東京都出身。東京大学卒業後、都内金融機関にて投資銀行業務に従事。その後、米国へ留学しMBA(経営学修士)を取得。現在は、上場企業にて経営企画業務に従事する傍ら、副業としてITスタートアップにてCFOとして関与。
Blog Author: Gary Tanaka

CFO of the IT venture company (Data Analytics)

Finance / Corporate Planning / Ex. Investment Banker

University of Tokyo (LL.B) |

University of Michigan, Ross School of Business(MBA)

Tokyo, Japan

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