前回までの記事では、株主資本コストと負債コストについて説明しました。
今回の記事では、株主資本コストと負債コストから、会社全体の資金調達のコストであるWACC(加重平均資本コスト, Weighted Average Cost of Capital)を求める計算式について説明します。
WACCは下記の計算式によって計算することができます。
E: 株主資本の時価
D: 有利子負債
Re: 株主資本コスト
Rd:負債コスト
Tax Rate: 実効税率
WACCの基本的な求め方は、その名前の通り株主資本コストと負債コストをそれぞれ、そのコストが生じる株主資本と有利子負債の金額によって加重平均することによって求めます。
この場合の株主資本の金額は時価を用いるか、簿価を用いるかで混乱する方がいますが、WACCの計算においては時価を用いるべきです。
なぜなら、投資家はその時価で株主資本を売却して他の金融資産に投資することができるのですから、投資家の機会費用をより正確に把握できるからです。
一方で、有利子負債についても時価を用いるべきではありますが、株式に比べて、有利子負債の時価の情報を取得することは困難な場合が多いです(社債を発行していれば把握は可能ですが、社債がマーケットで取引されているような企業は信用力の高いごく一部の企業に限られます)。また、株主資本の時価と簿価の差に比べて、有利子負債の時価と簿価の差は小さいことが一般的です(時価が簿価より小さいという事はあり得ますが、その場合はその企業によって返済をなされない可能性があるとマーケットが評価していることを意味します)。
したがって、WACCの計算において、有利子負債の金額として簿価を用いることは実務では十分に許容されています。
では、具体例でWACCを計算してみましょう。
A社の資本構成は、20百万円の有利子負債と30百万円の株主資本であるものとします。
負債コストが6%、株主資本コストが18%、実効税率が40%の時のWACCを計算してください。
WACC = E / (E+D) × Re + D / (E+D) × Rd × (1- Tax Rate)
= 30 / (20 +30) × 18% + 20/ (20 +30) × 6% × (1-0.4)
= 12.24%
となります。
この場合、株主資本コスト > WACC > 負債コストという関係が成り立ちます。
WACCは企業ごとに異なります。
なぜならば、①ビジネスのリスクはそれぞれ異なり、②資本構成(負債資本倍率、D/E Ratio)によって生じる財務リスクが異なるからです。
つまり、全く同じビジネスを行っている企業であったとしても、その資本構成によってWACCに差が生じるのです。
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