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執筆者の写真Gary Tanaka

MBAファイナンス54:財務リスク

更新日:2021年4月9日


WACCは企業のビジネスリスクだけでなく、財務リスク(資本構成)の影響を受けます

財務リスクがどのようにWACCに影響を与えるかを具体的な数値で見てみましょう。


A社の資本構成は、20百万円の有利子負債と30百万円の株主資本であるものとします。

負債コストが6%、株主資本コストが18%、実効税率が40%の時のWACCは12.24%です(前々回の記事より)。


ここで、A社が財務レバレッジをより大きくした場合、すなわち負債比率を大きくした場合にWACCにどのような影響があるかを見てみたいと思います。

A社がここで20百万円を有利子負債として調達し、自己株式の取得に利用した場合にWACCにどのような影響はあるでしょうか。


この場合の有利子負債はD=20+20=40となり、株主資本はE=30-20=10となります。


WACC = E / (E+D) × Re + D / (E+D) × Rd × (1- Tax Rate)

= (10/50)×18 + (40/50) ×6 ×(1-0.4)

= 6.48% となります。


この場合、A社のWACCは財務レバレッジを活用することで大幅にダウンしていることになります。

この計算は正しいでしょうか? 実はこの計算には大きな誤りがあります。

実際には、財務レバレッジを利用するとこの企業のリスクは増大し、有利子負債コストと株主資本コストは増大してしまうのです





財務レバレッジによる、有利子負債コストと株主資本コストの増加について事例をベースに考えてみましょう。


2つの企業U社とL社について考えてみます。(U社のUはUnlevered、L社のLはLeveredの略です。)

U社とL社は全く同種・同規模のビジネスを行っており、ビジネスリスクは全く同じとします。U社とL社の違いはその資本構成です。

U社がその調達資金800百万円全てを株主資本によって調達しているのに対し、L社は400百万円を金利15%の有利子負債によって調達しています。

両社の営業利益はいずれも160百万円で、発行済株式数はいずれも20株とします。

もし、営業利益が160百万円から80百万円に減少した時、U社とL社のEPS(Earnings Per Share, 1株当たり利益)にどのような影響があるでしょうか。


U社の場合は全て株主資本ですので、有利子負債に対する利払いはありません。したがって、EPSは160/20=8百万円から80/20=4百万円へと減少することになります。


一方で、L社の場合は、400×15%=60百万円の利払いが生じます。したがって、L社のEPSは(160-60)/20=5百万円から(80-60)/20=1百万円へと減少することになります。


U社の場合はEPSが50%に減少したのに際し、L社の場合は20%に減少しています。


財務レバレッジを活用することで、株主に対するリターンの振れ幅は増加することになります。なぜならば、財務レバレッジにより債権者に対する固定金額の利払いが生じ、株主資本に対するリスクが増加するからです。



財務レバレッジは、株式のβを増加させます。

この株式のβは以下のように表現できます。



つまり、βはビジネスリスク(アンレバードβ)と財務リスクの和であると考えることができるのです。


もし、U社のβが0.8で有利子負債がリスクフリー(ここでは便宜的にリスクフリーとしています)とした場合、L社のβはどうなるでしょうか?


U社のβが0.8の時、L社のβは上記の計算式より

0.8 + (0.8 – 0) × (400/400) = 1.6 となります。


上記の場合では、財務レバレッジによる節税効果が考慮されていません。節税効果を考慮した場合の計算式は下記の通りとなります。


L社の事例で、実効税率を40%とすると、L社株式のβは

0.8 + (0.8 – 0) × (400/400) × (1-0.4) = 1.24 と求めることができます。


D/E比率のエクイティβに与える影響を図示すると下記の通りとなります。






次に、株主資本コストへの影響を考えてみます。

CAPMの公式により、βの増加は要求リターンの増加を意味します

財務レバレッジは株主資本コストに対して、βに与える影響と同様に影響を与えるのです。


株主資本コストは、ビジネスのリスクを反映したアンレバードの株主資本コストと、財務リスクによって生じるプレミアムの和として表現することができます。


L社の事例ではアンレバードのエクイティコストが20%であり、実効税率が40%とすると、その株主資本コストは、

0.2 + (0.2 – 0.15) × (1 - 0.4)×(400/400) = 23%となります。





次に、負債への影響を考えてみます。財務レバレッジによりD/E比率が増加すると、その企業の倒産リスクは増加し、負債の調達金利は増加します。

倒産リスクはどのように見積もればよいでしょうか?

社債を発行して資金調達をするような企業であれば、Moody’sやStandard and Poor’sといった格付会社は債務不履行となるリスクを分析し、その結果に応じて格付けを付与しています。

格付けが低下すると、負債投資家の要求リターンは上昇するということになります。




一般的にBBもしくはB(Ba/B)を下回る格付けの債券はジャンク債として扱われ、投資家はより高い要求リターンを要求することになります。




財務レバレッジにより負債比率を高めると、


① 株主に対する財務リスクが上昇し、株主資本コストが増加

② 倒産リスクが増加し、税引前の負債コストが増加

③ 利息の支払による節税効果が発生


という3つの効果が表れることになります。 



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ブログ管理人:田中ゲイリー

東京都出身。東京大学卒業後、都内金融機関にて投資銀行業務に従事。その後、米国へ留学しMBA(経営学修士)を取得。現在は、上場企業にて経営企画業務に従事する傍ら、副業としてITスタートアップにてCFOとして関与。
Blog Author: Gary Tanaka

CFO of the IT venture company (Data Analytics)

Finance / Corporate Planning / Ex. Investment Banker

University of Tokyo (LL.B) |

University of Michigan, Ross School of Business(MBA)

Tokyo, Japan

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