EVAを業績評価の基準として導入することにより、経営陣は資本コストをより意識した経営を心掛けるようになり、経営陣によってより効率的な投資が実行されることが期待されます。
また、経営陣は初期投資額だけでなくプロジェクト期間中の運転資本の増減についても気を配るようになり、企業価値にネガティブな影響を与えるプロジェクトを避けるというインセンティブが経営陣には働きます。
しかし、EVAによる業績評価は万能ではなく、中長期的な成長機会が見逃され、経営者が短期的なEVAを達成しようというインセンティブが働くというデメリットがあります。
EVAは、設備投資を管理する手法としては優れている一方で、中長期的な成長戦略を実現する上では必ずしも万能ではないのです。
ここでは、一つケースとしてUSPS (U.S. Postal Service, 米国郵政公社)で導入されたEVAの導入事例を見てみたいと思います。
米国郵政公社は約30万人の従業員を抱える公的大企業です。(規模としては、日本郵便の約3倍です。)
1990年代中盤より、経営陣は非効率的なオペレーションの改善に取り組んでいましたが、その中で評価手法の変更も行われ1997年にはEVAが導入されました。
従業員全体のボーナスプールについては、EVAをベースに算出され、
EVAが400百万ドルに達するまではその金額の50%を、
EVAが400百万ドルを超える部分についてはその金額の25%が従業員全体のボーナスプールに算定されることになっていました。
会社全体のEVAは、支店レベルのEVAへと分解されて評価されるとともに、個人の業績評価は、EVA、定時配達率、自己啓発がそれぞれ1/3ずつのウェイトで評価されていました。
また、従業員の業績目標達成が近視眼的にならないよう、長期の投資を犠牲にした短期のEVA追及がなされないような工夫もなされていました。
EVAシステムは米国郵政公社が、非効率的なパフォーマンスを改善し、収益性の高い企業へと転換することに役立ちました。
しかし、その後インターネットやメールの登場による郵便への需要減少により2001年以降は売上高は減少傾向となっています。
また、競合であるFedExやUPSが大幅な業務効率の改善(イノベーション)の実現をしたことにより、郵便事業を巡る競争環境は厳しいものとなっており、米国郵政公社の財務面でのパフォーマンスは厳しい状況に直面しています。
米国郵政公社はEVAの導入により短期的には収益性の改善を行うことができましたが、中長期的な成長機会を創出するということはできませんでした(EVAの副作用)。
最後に、株価を活用した評価手法として補足説明したいと思います。
1つ目の評価手法はストックオプションです。
企業は、その所有者である株主と、株主より経営を受任している経営者のインセンティブを一致させるためにストックオプションによる報酬を導入しています。
ストックオプションとは経営者や従業員が自社株を一定の行使価格で購入できる権利のことを指します。
例えば、行使価格が50ドルのストックオプションを与えられた取締役や従業員は、行使期間内に株価が50ドルを超えた場合、その権利を行使してその株式を売却することで利益を上げることができます。
ストックオプションは、権利が付与されてから一定期間は権利の行使が制限されることもあり、結果として権利を付与された経営者や従業員は、中長期的に株価を上げることへのインセンティブが働くことになります。
2つ目の評価手法は、株価のパフォーマンスに応じた株式数の付与です。
経営陣への報酬として株式が与えられる場合に、与えられる株式の数をその期間の株主へのリターンに応じて決めるという考え方です。
この場合、経営者としては、単純に株価を上げるというだけではなく、配当や自社株取得による株主還元を行うことで期中の株主のリターンをどのように高めるかという点より注意を払うようになります。
ビジネス面での収益性を改善させるだけでなく、経営者は株主還元についてもより意識した運営を行うようになるのです。
これらの手法はいずれも、中長期的な株主価値の向上を意図した施策であり、EVAでは実現の難しい面もあった中長期での成長機会の創出にも活用することができる施策でもあります。
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