前の記事の結論の通り、過去の金融商品の価格は将来の価格を予想するのに役に立たないという考え方を「ウィークフォームの効率性」といいます。
この「ウィークフォームの効率性」については、それを支える多くの統計データや研究結果があります。
こうしたデータは、株価は前の記事で説明したランダムウォーク理論に従い、テクニカル分析によって価格を正確に予想することができないということが示されています。
マーケットの用語では、マーケット全体が強気な相場をブル相場といい、弱気な相場をベア相場といいます。
株価の上昇トレンドにあるブル相場では株式を買えば、そのトレンドに乗って株価が上昇し儲かりそうな気がします。
しかし、残念ながら「上昇トレンドや下降トレンドがその後のトレンドを予想するヒントになる」ことを示すエビデンスは見つかっていません。
上昇トレンドの時に、そのトレンドの序盤でそのトレンドに気づいて株を購入した投資家は儲けることができますが、トレンドの終焉近くで投資家は損を被ることになります。
そして、トレンドのなかで現在が始まりなのか、終焉なのかは誰にもわかりません。
同じことは下降トレンドに関してもいうことができます。
過去のトレンドは、将来のトレンドを保証するものではないのです。
(余談ですが、ブルは英語で「雄牛」、ベアは英語で「クマ」の意味です。攻撃するとき、雄牛は角を下から上に突き上げることからベア相場は上昇相場を、クマは爪を上から下に振り下ろすことから下落相場を指しています。)
証券アナリストが「適切と考えられる株価水準」を予想する際に用いるもう一つの手法がファンダメンタル分析です。
ファンダメンタル分析では、企業の財務情報や経済情報を利用して将来の株価を予想しようとします。
アナリストにより提供されるデータやレポート、専門家の意見、会社訪問や投資先の経営陣との議論を通じてその会社のあるべき経済的価値を理解しようとするのです。
たとえば、A社の販売する商品への需要が減少すると予想した時、その予想を行ったアナリストは投資家に対してA社の株式を売却するように推奨します。
では、アナリストの推奨に従ってA社株式を売却すれば損失を回避することができるでしょうか?
残念ながら、それはタイミングによるとしか言えません。
アナリストの予想をマーケットがA社の株価に織り込む前に売却すれば、それ以降の下落による損失は回避することができます。しかし、マーケットがA社の株価に織り込んでしまってから売却をしたら、時既に遅しで損失を回避することはできないのです。
もう一つ事例を示したいと思います。
アメリカでは、デパートの売上はその多くがクリスマスシーズンによるものです。(クリスマスシーズンの需要増は11月頃よりスタートします。)
デパートの株式を11月の前に購入して、1月に売却することで利益を得ることができるでしょうか?
残念ながら上記の情報は既に公知の事実であり、その情報は市場に織り込まれているので、11月に購入して1月に売却しても利益を上げることはできないのです。
公知の情報はすぐに株価に織り込まれてしまう為、証券アナリストは特定の産業や起業にフォーカスして分析を行い、マーケットの気づいていないヒントを見つけようと日々努力しています。
分析力のある有能な証券アナリストがマーケット気づいていない情報に気づくことができれば、マーケットに先んじることができる可能性はあるのです。
残念ながら、新聞や公開情報に依拠して分析しているだけでは、そうした有能な証券アナリストに勝つことはできません。
あなたが特定の株式を売買することでマーケットに勝つことができると考えとしたら、それは証券アナリストやプロの投資家を含めた集合知に対して勝てるとあなた自身が考えているということを忘れてはいけません。
プロに勝てるだけの十分な能力があり、十分な分析の努力を行ってきたか冷静に振り返ってみることをおすすめします。
最後に頭の体操として、「空売り」の事例について考えて欲しいと思います。
ある株式の株価が下がるという予想をしているのであれば、その株式を保有していないくても株式を借りて売却するということが可能です。この取引のことを「空売り」といいます。
一定期間内に株を買い戻して返還する必要がありますが、株価が下がれば下落分が利益となります。
空売りを行うのは主に、プロの投資家ですが、空売りが実際になされるとその情報はマーケットの知るところとなります。もし、あなたがA社の株式を保有していて、プロの投資家がA社株式を空売りしているということに気づいた時、あなたはA社株式を買うべきか、もしくは売るべきか今までの記事を参考に考えてみてください。
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