A社の資本構成は、20百万円の有利子負債と30百万円の株主資本であるものとします。
負債コストが6%、株主資本コストが18%、実効税率が40%の時のWACCは12.24%です。
A社がここで20百万円を有利子負債として調達し、自己株式の取得に利用した場合にWACCにどのような影響はあるでしょうか。
ここでは、財務レバレッジによって、税引前の負債コストは3%上昇して9%に上昇するとします。
この場合、財務レバレッジによりWACCにはどのような影響があるでしょうか?
この問題を回答するには、アンレバードの株主資本コストを求める必要があります。
その為に、前回の記事で扱った株主資本コストとアンレバードの株主資本コストの関係を表した下記の公式を使うことになります。
上記の公式に有利子負債調達前の数値を当てはめます。アンレバードの株主資本コストをRuと表現すると
18% = Ru + (Ru – 6%) × (20/30) ×(1-0.4) となり、
アンレバード株主資本コストRuは14.57%と求めることができます。
このRuを代入し、有利子負債調達後の株主資本コストを求めると、
14.57 + (14.57 – 9) × (40/10) × (1-0.4) = 27.94%となります。
従って有利子負債調達後のWACCは、
(10/50) ×27.94 + (40/50) ×9 ×(1-0.4) = 9.91%となります。
この数値は有利子負債調達前のWACCである12.24%より小さくなります。
財務レバレッジを活用することで、株主資本コストと負債コストは増加しましたが、それ以上に節税効果の影響の方が大きく作用し、トータルでのWACCを下げる結果となったのです。
未上場企業のWACCや事業部ごとのWACCを計算する方法は上場企業と変わりません。
しかし、上場企業とは異なり株価のデータが存在しないため、βを算定することができません。
そこで、未上場企業や事業部のβとしては、
① 同じ産業に属する全ての上場企業を加重平均して求めた産業全体のβを算出し、
② その未上場企業や事業部のD/E比率に応じて調整する形になります。
具体的な事例で考えてみましょう。
産業全体のβがD/E比率100%の時で1.2であり、有利子負債コストが8%とします。
ある未上場企業A社のD/E比率が80%で負債コストが7.5とした時のWACCを算定したいと思います。
ここでは、リスクフリーレートは5%、マーケットリスクプレミアムは6.9%とし、実効税率は40%とします。
この場合A社のWACCは以下の4ステップで求めることができます。
ステップ1: 産業全体の株主資本コストをCAPMにより求める。
6.9% × 1.2 + 5% = 13.28%
ステップ2: 産業全体のアンレバード株主資本コストRuを求める。
13.28 = Ru + (Ru – 8) × 100% ×(1-0.4) を解いて、
産業全体のアンレバード株主資本コストRu = 11.3%と求めることができます。
ステップ3: 上記よりA社の株主資本コストを求める。
11.3 + (11.3 – 7.5) ×80% × (1 -0.4) = 13.124%
ステップ4: A社のD/E比率に応じてWACCを計算する。
13.124 × (10/18) + 7.5 × (8/18) × (1- 0.4) = 9.29 %
ここまでの記事では、投資の意思決定をする際に使用する割引率(資本コスト)の計算方法について説明してきました。
次回以降の記事では、資本市場理論について説明していきます。
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